技術屋カツヒサの徒然日記

電子回路系エンジニアが、気になったことを何となく書いてます

スマホバッテリー延命用、「超低速」充電器の制作(1)

前回の記事で、私のスマホはバッテリー寿命に不安があることが分かりました。その対策として「いつになるか分からないけど作ろう」と書いていたスマホ用充電器ですが、あまり先延ばしにしていると私のスマホ寿命が刻一刻と削られていく気がするため、とりあえず制作に着手しました。

【要求仕様】

  1. 自然消費分を相殺する程度の小電流で、定電流充電できること。
  2. 充電電流を自由に設定できること。
  3. 過充電しないこと。
  4. 安価で簡単に作れること。

とりあえず、これくらいでしょうか?
仕様項目としては挙げましたが、3番目の過充電は心配する必要ありません。本来スマホのバッテリー充電はスマホ内の充電回路が管理していますので、USB定格の5V以内で充電している限り、フル充電以上にはなりません。まぁそのフル充電がしたくないから、わざわざこんな充電器を作ろうとしているわけですが・・・。

スマホの自然消費分と相殺する程度の電流で充電したいというのが目的なわけですが、本当に相殺しているのか確認するには、スマホのバッテリー電流監視アプリ(AccuBattery)で電流を確認するしかありません。つまりアプリ画面を見ながら充電電流を調整するために、1〜2番目の項目が必要になります。

またこの調整方法では、スマホがスリープ状態に入る(=画面が消える)と消費電力が変化してしまうので、調整した意味が無くなってしまい都合が悪いです。そこで、以前に書いた方法充電中に画面がスリープにならない設定にして使うことにします。
前回の調査では、画面表示中の平均バッテリー消費電流は300mA程度でしたので、その前後で充電電流を調整できることを設計目標にします。

簡単に作れる定電流充電回路ということで、今回は秋月電子の通販で購入できる「鉛蓄電池用充電器キット」(1000円)を流用します。NJM723Dという充電回路用ICを使ったお手軽充電器で、車などに載っている12Vバッテリーを対象にしたものですが、調整次第で今回の用途にも使えます。ただし、見ての通りキットに入っている基板は無駄に大きくてスカスカですので、今回は小さいユニバーサル基板に手配線で作ります。72x47.5mmサイズのユニバーサル基板(60円)に余裕で入る感じです。USBコネクタを載せるのにも同程度のサイズの基板が必要ですから、72x95mmサイズの基板(200円)にまとめた方が基板間配線とかしなくて良いので便利かもしれません。

※ 写真左上のダイオードブリッジと、基板上の巨大電解コンデンサは使いません。

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データシートによると、NJM723DというICは単体でも定電流定電圧充電を制御できるようですが、流せる電流が最大で150mAしか無いため、パワートランジスタを追加して使用するようです。ちなみにNJM723Dのデータシートは、客を舐めとんのか!と言いたくなるくらい使い方が何も書いていません。等価回路とかありますが、アナログ集積回路の知識がない人にとっては何の絵ですか?と言いたくなるくらい意味不明でしょう。

【充電回路の説明】

とりあえず使い方だけ簡単に説明します。

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ICの11pinと12pinが電源、7pinがGNDです。データシートには+電源とー電源と書いてありますが、マイナス電圧は扱いませんので「ー電源=GND」です。
10pinが出力端子Voutになっていて、これをそのまま出力にすることも可能ですが、IC単体では150mAしか流せないのと、ICが猛烈に発熱するため外部のパワートランジスタで増幅します。回路としては単純なエミッタフォロワー構造です。

なおICの仕様として、+電源よりVoutは3Vくらい電圧が下がります。更にVoutよりトランジスタのエミッタ電圧は0.6Vくらい下がり(BーE間ドロップ)、それから電流検出抵抗R7で少し下がった電圧が回路の出力になります。

そのため、回路の出力電圧を5Vくらいにしたければ、逆算してざっくり9V以上の+電源が必要になります。
キットには、AC100Vから自分で作ってくださいと言わんばかりにダイオードブリッジと電解コンデンサ(C2)が入ってますが、変圧トランスという、一番面倒なところを丸投げして「別途準備してください」と書いてあるあたり、とても秋月電子らしいと思います。

100V系の電源回路は、変圧トランスで重くなるしショートさせると部屋のブレーカーが落ちるので作りたくないです。

ということで、お手軽に秋月電子の電圧変換モジュール(700円)を使うことにします。電圧を上げる方向の変換は結構面倒なんですが、モジュール1つでできるので便利なものです。

 ↓電圧変換モジュール

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電源はお手軽にmicroUSBメスコネクタ(130円)から入力して、回路出力はTypeA USBメスコネクタ(120円)から取り出すことにします。

ちなみに経験則として、入出力のコネクタが同じものだとケーブルを挿し間違える可能性が高いので、両方TypeAコネクタにするのはオススメしません。

 

充電回路の動作説明の続きですが、ICは5pinと4pinがそれぞれ+入力とー入力です。オペアンプの仮想接地と同じように、これらの電位が同じになるようなVout電圧を出力します。

半導体なので温度変化で結構変動しますが、IC内で基準電圧Vrefを生成して6pinに出力してくれているので、この電圧を半固定抵抗VR2で分圧して+入力に接続します。

ー入力端子の電圧もこれと同じになるので、VR2で調整できるようになります。

ー入力端子の電圧は、出力電圧をR5とR6で分圧したものですから、逆に言えばー端子電圧の ((R5+R6)/R6) 倍の電圧が出力になります。

このキットではR5=R6ですので、VR2で調整したー端子電圧の、丁度2倍ですね。


なおVref電圧の標準値は7.15Vですので、出力電圧は0〜14.3Vくらいの範囲で調整できます。今回はUSBの規格通り、5.0Vに調整します。

13pinについてるのはICの補償用コンデンサで、安定動作するために必要なものと考えて下さい。そのわりにはICデータシートに推奨値が書いてないのが納得いきませんが。

出力電流の検出抵抗R7は、電流次第で結構発熱するためセメント抵抗を使います。キットには2種類(1Ωと5Ω)入っていて、抵抗値が小さいほど大電流に対応できるようになりますが、今回は大電流は必要ないので5Ωを使用します。
R7両端の電圧は、R7と並列に入っている半固定抵抗VR1で分圧して2pin-3pin間に入力します。2pin-3pin間電圧が0.6V以上になると電流制限機能が働き、ICの出力電圧Voutを下げることで出力電流を制限します。つまり出力電流の上限値はVR1で調整します。

今回は、流れている電流値を見ながらボリュームつまみを指で回して調整できるようにしたかったので、キット付属のVR1は使わず、パネル取り付け型の1KΩボリューム(40円)とボリューム用つまみ(20円)、それと電圧/電流測定LEDパネルメーター(1000円)を買ってつけました。
ボリュームくらいなら安いですし、指で回して調整できた方が便利だと思います。パネルメーターの方は完全な趣味ですね(笑)。どうせアプリでバッテリー電流を見ながら調整するから必須では無いのですが、なんか表示してた方がカッコイイので。

もし同じようにパネルメーターをつけたいという場合、意外と接続がややこしいので簡単な接続図を載せておきます。
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表示用電源のCOMと、電圧測定のCOMが共通になっている関係で、電流計は出力の+側ではなくー側に入ります。このため出力側USBのGNDは、少しだけ電位が浮きますので注意が必要です。簡単に言えば、入力側と出力側でUSBのGND電位がずれるから、接触させるなということです。

接触したからといって危険はありませんが、接触するとGND側の戻り電流が、電流計を通らず接触ヶ所から戻ってきてしまいますから、電流計が正しく表示されません。
例えばこの回路をアルミケースに入れると、USBコネクタがアルミケースに接触する可能性があります。そのとき、入出力両方のコネクタがケースと接触しているとアルミケース経由で電流が流れてしまうという事があります。充電されているのに電流表示が0になっている場合は、そのあたりを確認すると良いでしょう。

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実際に製作して、充電中の写真です。
充電電流の調整範囲は、実測でだいたい150mA〜400mAくらいの間でした。ちょっと使ってみた感じでは、目標どおりスマホの消費電力と相殺する程度の充電ができているようでしたが、しばらく放置して電圧履歴がちゃんと横ばいになるかどうか確認したいと思います。

ちなみにケースは適当なものが無かったので、100均で売ってた固めのクリアポケットを四角に切り抜いて、手元にあったアルミテープを駆使(?)して箱型に整形して使いました。とりあえず的な作りではありますが、カバンに入れたら押し潰されそうなので、近日中になんとか改善する予定です。


ということで動作確認までできたので、今日はこれまでとします。